研究内容

メダカを用いた癌モデルの確立

松崎 ゆり子

実験動物を用いた癌の研究は、主にマウスなどで様々な癌について行われており、大きな成果を上げてきました。そしてこれらは、今後も癌研究に不可欠な実験系であることはいうまでもありません。しかし、マウスやラットの実験系を用いた場合の難点は実験施設に多大な経費が必要となり、個体あたりの単価も高価であるため、多数の個体を用いた大規模な実験を行うには、主に費用の面で困難を伴いました。そこで私たちが次世代の実験動物として重要視しているのが小型魚類であるメダカです。元々日本を生息地とするメダカは暑い夏と寒い冬に耐えて生育可能であり、環境に対する適応力がすばらしく、実験動物として適しています。近年、メダカの全ゲノム配列が報告され、ヒトやマウスとの遺伝子比較も容易になりましたが、それに加え遺伝子導入や機能阻害の技術も飛躍的に改善され、マウスで行われていた研究のほとんどはメダカでも行うことが可能になりました。

 私たちはメダカ1細胞期胚に癌遺伝子を導入し、安定に維持され、しかも高頻度で癌を生じる系統の確立を目指しています。解剖によらず目視で腫瘍を認識する目的で、黒色素胞特異的発現遺伝子であるチロシナーゼプロモーターの下流に癌遺伝子HRASの高活性型変異を結合し胚に導入することにより、メダカ黒色腫瘍モデルを構築しました(2011年日本癌学会学術総会において発表)。この黒色腫瘍メダカは、孵化前に異常な黒色素胞の増殖を呈する個体もありますが多くは3-4ヶ月で外見上認識できる黒色腫瘍を発症し、転移のような経過をたどる個体も多数みられました。そして6ヶ月までに100%の個体に外観から確認できる黒色腫瘍がみられました(図1)。組織染色を行うと、消化管、腎臓、脾臓、心臓、目、脳、鰓、筋肉、表皮、脊椎などほとんどの組織で黒色細胞が浸潤していました(図2)。私たちはさらにこの黒色腫瘍メダカ系統を用いて既知の抗癌剤投与による治療モデルへの応用を検討しました。検討に用いた抗癌剤ソラフェニブはRAS遺伝子下流のBRAFを標的とし、臨床でも第III相試験を終了しているので治療効果が期待されました。ソラフェニブ投与群では0.1 μMの濃度で週2回、1回24時間の水浴を1か月間行いました(対照群では溶剤を同量添加)。その結果ソラフェニブ投与により有意な生存の延長がみられ、私たちの作製したモデル系が薬剤効果の確認に利用できることがわかりました(これらの結果の詳細はPLOS One: vol.8(1) : e54424, 2013.にて発表)。今後さらに抗癌剤として有望な薬剤の臨床前試験に応用する予定です。

図1-1.png図2-1.png