研究内容

細胞周期M-G1期制御による癌抑制機構

國仲 慎治

研究内容

細胞分裂の制御機構解明は細胞増殖という基本的な生命現象の理解に必須です。細胞分裂開始の主エンジンはCyclin B/Cyclin dependent kinase1 (Cdk1)複合体によるリン酸化シグナルであることは良く知られています。一方、分裂期からの脱出はそのリン酸化シグナルを抑制することにより行われています。その主体はE3ユビキチンリガーゼ複合体Anaphase promoting complex/Cyclosome (APC/C)によるCyclin Bの分解と、フォスファターゼの活性化という2つの経路の協調的作用からなります。出芽酵母ではMitotic Exit Network (MEN)というシグナル伝達系がフォスファターゼ(cdc14)を活性化させ分裂期脱出を制御していることが知られています(Stegmeier & Amon, Annu. Rev. Genet. 2004)。私たちはMENシグナル因子の哺乳類ホモログLATS1/WARTS(WTS)キナーゼとAPC/C活性化因子Cdh1の解析を通して、哺乳類細胞における分裂(M)期脱出からG1期の制御機構解明を目指しています。興味深いことにLATS1/WTSとCdh1のノックアウトマウスは双方とも腫瘍を形成することから(St John, et al. Nat. Genet.1999; Garcia-Higuera, et al. Nat. Cell Biol. 2008)、M期-G1期制御は癌発生に重要な意義を持つことが強く示唆されています。その制御機構の解明は新たな癌治療標的の発見に寄与するのではないかと考えています(下記3参照)。

 

1.APC/C 活性化因子Cdh1

Cdh1はM期後期からG1期にかけてAPC/C を活性化させます。M期においてはユビキチン・プロテアソーム系によるauroraキナーゼなどの分解を介しFig1.pngてM期後半の進行を制御しています(Peters. Mol. Cell 2002)。G1期においては同様な機序でのCyclin B分解によるcdk1活性抑制などで、S期に働くDNA複製因子形成を促進させています。しかし、G1期は分化の入り口でもあり、Cdh1が神経細胞軸索伸長に関与するとの報告(Konishi, et al. Science 2004)などから、Cdh1の細胞周期制御以外の役割が示唆されていました。私たちはCdh1 gene-trap (GT)マウスを用いた解析で、Cdh1がsmall G蛋白Rhoの制御に関わるという新たな機能を明らかにしました(Naoe, et al. Mol. Cell. Biol. 2010)。Cdh1はRhoの主要なGAP(GTPase activating protein)であるp190を標的として、Rho活性を正に制御して細胞移動にも関与していることが明らかになりました。興味深いことに、Cdh1 homozygous GTマウスはRhoの重要なエフェクターであるROCK(Rho associated kinase)のノックアウトマウス(Thumkeo, et al. Mol. Cell. Biol. 2003; Shimizu, et al. J. Cell Biol. 2005)とよく似た表現形(胎児の眼瞼閉鎖遅延、胎盤の血栓形成)を呈することから、Cdh1を介したRho制御は個体においても重要な役割を果たしていると考えています(Naoe, et al. Mol. Cell. Biol. 2010, 図1)。

 

2.LATS1/WTSキナーゼ

分裂期脱出に関与する出芽酵母のMENシグナル伝達系はGTP結合蛋白のTem1からLATS1/WTSの機能的ホモログであるdbf2キナーゼを介し、cdc14ホスファターゼを活性化させます。Cdc14はCdh1やCdk阻害蛋白Sic1などの抑制的リン酸化を除去し、cdk1活性を抑制することで分裂期脱出に重要な役割を果たしています。Dbf2はCdc14自身やその阻害因子Net1のリン酸化を介して、cdc14を活性化させています。しかし、哺乳類細胞における分裂期脱出にはCdc14以外のフォスファターゼが機能していることが最近明らかになってきました(Wurzenberger & Gerlich. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2011)。一方、LATS1/WTSの基質としてこれまで明らかになっているのは、YAPやTAZというような転写関連因子であり、これらはHippo 系路というショウジョウバエで最初に発見された体の大きさを規定するシグナル伝達系の下流として明らかになったものです(Pan. Dev. Cell 2010)。現在のところ、Cdc14ホモログがLATS1/WTSの基質であるとの報告はなく、哺乳類細胞におけるMENシグナル伝達系の生理的意義は不明な点が多くあります。私たちはLATS1/WTSの新たな基質を検索すると共に、哺乳類細胞におけるMENの役割を明らかにしたいと考えています。

 

 

3.分裂期脱出を標的とした癌治療

現在の癌治療において中心的役割を果たしているtaxanやvinca alkaloid(vinblastine, vincristin)などの微小管阻害薬は細胞分裂期特異的に作用することが知られています。これら微小管阻害薬の最終的な標的はAPC/Cです。この薬剤は正常な微小管形成を阻害しSAC(spindle assembly checkpoint)を活性化させることでAPC/Cによる分裂期脱出を阻害します。このAPC/C 阻害によるCyclin B蓄積の持続時間に比例して細胞死を起す割合が増えることが知られています(Gascoigne & Taylor. Cancer Cell 2008)。従来の微小管阻害薬によるSACを介したAPC/C阻害は不完全であるため、細胞死が誘導される前にCyclin Bが分解されてしまい、これが薬剤耐性細胞の出現などの問題を引き起こしていました。そこで最近はSACに頼ることなくAPC/Cを抑制することが癌治療の新たな標的になるのではないのかと期待されています(Huang, et al. Cancer Cell 2009)。

一方、私たちはMENシグナル伝達系の哺乳類ホモログLATS1/WTSがOmi/HtrA2セリンプロテアーゼを活性化させることで細胞死を誘導することを見出しており(Kuninaka, et al. Oncogene 2005)、分裂期脱出と細胞死のシグナルは密接に関連していることが予想されます。今後は、LATS1/WTSとAPC/Cの機能相関なども含め、分裂期脱出を標的とした癌治療法の可能性について検証を進めていきたいと考えています。

 

発表論文

  1. Kobayashi Y, Shimizu T, Naoe H, Ueki A, Ishizawa J, Chiyoda T, Onishi N, Sugihara E, Nagano O, Banno K, Kuninaka S, Aoki D, Saya H: Establishment of a Choriocarcinoma Model from Immortalized Normal Extravillous Trophoblast Cells Transduced with  HRASV12. Am J Pathol 179:1471-82. 2011

 

  1. Ishizawa J, Kuninaka S, Sugihara E, Naoe H, Kobayashi Y, Chiyoda T, Ueki A, Araki K, Yamamura K, Matsuzaki Y, Nakajima H, Ikeda Y, Okamoto S, Saya H: The cell cycle regulator Cdh1 controls the pool sizes of hematopoietic stem cells and mature lineage progenitors by protecting from genotoxic stress. Cancer Sci 102:967-974. 2011

 

  1. Shimizu T, Ishikawa T, Sugihara E, Kuninaka S, Miyamoto T, Mabuchi Y, Matsuzaki Y, Tsunoda T, Miya F, Morioka H, Nakayama R, Kobayashi E, Toyama Y, Kawai A, Ichikawa H, Hasegawa T, Okada S, Ito T, Ikeda Y, Suda T, Saya H: c-MYC overexpression with loss of Ink4a/Arf transforms bone marrow stromal cells into osteosarcoma accompanied by loss of adipogenesis. Oncogene 29:5687-5699. 2010

 

  1. Naoe H, Araki K, Nagano O, Kobayashi Y, Ishizawa J, Chiyoda T, Shimizu T, Yamamura K, Sasaki Y, Saya H, Kuninaka S*: The anaphase-promoting complex/cyclosome activator Cdh1 modulates Rho GTPase by targeting p190 RhoGAP for degradation. Mol Cell Biol 30:3994-4005. 2010 (*corresponding author)

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  1. Kuninaka S*, Iida S, Hara T, Nomura M, Naoe H, Morisaki T, Nitta M, Arima Y, Mimori T, Yonehara S, Saya H*: Serine protease Omi/HtrA2 targets WARTS kinase to control cell proliferation. Oncogene 26:2395-2406. 2007 (*co-corresponding author)

 

  1. Kuninaka S, Nomura M, Hirota T, Iida S, Hara T, Honda S, Kunitoku N, Sasayama T, Arima Y, Marumoto T, Koja K, Yonehara S, Saya H: The tumor suppressor WARTS activates the Omi/HtrA2-dependent pathway of cell death. Oncogene 24: 5287-5298. 2005

 

  1. Arima Y, Nitta M, Kuninaka S, Zhang D, Fujiwara T, Taya Y, Nakao M, Saya H: Transcriptional blockade induces p53-dependent apoptosis associated with translocation of p53 to mitochondria.  J Biol Chem 280:19166-19176, 2005