トピックスレポート

絨毛癌モデルの作成と新規治療標的の探索
小林佑介

絨毛癌は妊娠に引き続いて生じる、胎盤を構成する絨毛を発生母地とする悪性腫瘍です。現在では化学療法が奏効しやすい固形腫瘍の一つとなりましたが、標準化学療法として用いられるEMACO療法は多剤併用による有害事象も多く、また化学療法に抵抗を示す症例も散見されます。以上のような背景のもと、絨毛癌の発癌および転移メカニズムに基づいた新規治療標的の同定が求められています。しかし、絨毛癌の臨床検体はその発生頻度の低さから得られにくく、また、臨床像に一致した絨毛癌動物モデルも確立されていないため、絨毛癌の発癌および転移機構は未だ明らかになっていないのが現状です。今回私たちはヒト不死化正常絨毛細胞HTR8/SVneoを用いて臨床像を模倣する絨毛癌モデルを樹立し、絨毛癌の発癌メカニズムや浸潤/転移のメカニズムを明らかとすることを目的として研究を行いました。

ヒト不死化正常絨毛細胞HTR8/SVneoにレトロウイルスを用いてHRASV12遺伝子を導入したHTR8/SVneo/HRASV12/EGFP細胞は、control細胞であるHTR8/SVneo/EGFPでは腫瘍形成を認めなかったのに対し、ヌードマウスへの皮下移植により全例で致死的腫瘍形成能を示しました。この形成された腫瘍から樹立した絨毛癌細胞株iC3-1 (induced choriocarcinoma cell-1)も同様に致死的腫瘍形成能を示すとともに、その腫瘍は病理学的にsyncytiotrophobalstsとcytotrophoblastsによる絨毛癌に特徴的なtwo cell patternを示し、免疫染色ではhCG陽性、hPL陰性であり、臨床検体を模倣する絨毛癌モデルの作成に成功しました。このモデルを用いてマイクロアレイ解析や定量的RT-PCR、免疫組織化学染色などを行った結果、絨毛癌浸潤、転移機構にMMP(matrix metalloproteinase)familyやEMT(epithelial-mesenchymal transition)が関与している可能性が示唆されました。またSOX3遺伝子をknock downしたiC3-1/sh SOX3はcontrol細胞と比較して有意に細胞増殖能および腫瘍形成能が抑制され、皮下移植によるヌードマウスは生存期間が有意に延長されたことから、SOX3遺伝子が絨毛癌の新規治療標的となりうるなどの様々な知見が得られました。

さらに興味深いことに、作成したiC3-1細胞はヌードマウスでの連続移植でも腫瘍形成能を認め、その腫瘍はtwo cell patternを示すことから、iC3-1細胞内に絨毛癌幹細胞が含まれている可能性が考えられました。今後はiC3-1細胞から絨毛癌幹細胞を分離同定し、幹細胞を標的とした新規治療の開発に取り組んでいきます。
iC3-1細胞によりヌードマウスに形成された腫瘍の病理像
(Kobayashi Y, et al. Am J Pathol. 2011 [In Press]より)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21787741