トピックスレポート

前駆B細胞リンパ性白血病・リンパ腫(pre-B ALL/LBL)の起源細胞の同定と予後不良性pre B-ALL/LBLに対する新規治療法の開発
杉原英志

Sugihara E, Shimizu T, Kojima K, Onishi N, Kai K, Ishizawa J, Nagata K, Hashimoto N, Honda H, Kanno M, Miwa M, Okada S, Andreeff M and Saya H: Ink4a and Arf are crucial factors in the determination of the cell of origin and the therapeutic sensitivity of Myc-induced mouse lymphoid tumor. Oncogene 2011

がんの起源となる細胞を知ることは予防医学的に、また個々の患者さんの治療方針を決定する上で非常に重要な情報を提供する可能性があります。私達はマウスを用いて前駆B細胞リンパ球性白血病・リンパ腫(pre-B ALL/LBL)の起源となる細胞を同定しました。さらに起源細胞の違いによって抗がん剤感受性に違いが生じることを明らかにし、特に予後不良性のがん細胞に効果のある薬剤を見出しました。

私たちはこれまでがん遺伝子Mycをマウス骨髄単核球細胞で発現させると前駆B細胞リンパ性白血病・リンパ腫(pre-B ALL/LBL)を発生させるマウスモデルを構築してきました。本研究ではこのモデルを用いて①その起源となる細胞の同定し、起源を決定する因子(遺伝子)を明らかにすること、②形成した腫瘍細胞の増殖及び抗がん剤耐性能を比較解析することを目的として検討を行いました。まず起源細胞の同定を目的としてMycを発現した骨髄単核球細胞を細胞表面マーカーにて様々な種類の細胞にソートし、移植しました。その結果、造血幹細胞を移植すると100個からでも腫瘍が形成できたのに対し、リンパ系前駆細胞や骨髄系前駆細胞からは1,000個、10,000個移植しないと腫瘍が形成できず、さらに前駆B細胞は50,000個移植しても全く腫瘍ができないことがわかりました。この結果から、造血幹細胞が最も腫瘍形成能が高いことがわかり、pre-B ALL/LBLの起源細胞は造血幹細胞であることが示唆されました。造血幹細胞は一般的にInk4a及びArf遺伝子(CDKN2Aと呼ばれる同じ遺伝子座にコードされている)の発現が低レベルで制御されることで自己複製能を有していることが知られています。そこで、両遺伝子を欠損したマウスの前駆B細胞にMycを発現して移植を試みました。その結果、前駆B細胞からも腫瘍が直接形成できることがわかりました。このことから、Ink4a及びArf遺伝子がpre-B ALL/LBLの起源を決定する重要な因子であることが明らかになりました。更に前駆B細胞ではArf遺伝子がInk4aよりも高発現であることと、Arf単独欠損した前駆B細胞からも腫瘍が形成することも明らかにしており、Arfが起源決定に特に重要な働きをしている可能性が示唆されました。

次に造血幹細胞由来の腫瘍細胞とInk4a及びArfが欠損した前駆B細胞由来の腫瘍細胞(Ink4a/Arf欠損腫瘍細胞)とで増殖能・抗がん剤耐性能を調べました。その結果、Ink4a/Arf欠損腫瘍細胞がより増殖能が高く、また既存の抗がん剤(Ara-C)に耐性であることがわかりました。Arf遺伝子産物はMdm2と呼ばれる分子を阻害することでp53がん抑制遺伝子を活性化することが知られています。私達は欠損したArfに代え、Mdm2阻害剤であるNutlin-3を処理することでp53を再活性化させ、Ink4a/Arf欠損腫瘍細胞を効率よく攻撃することができるのではないかと考えました。その結果、予想通りNutlin-3はp53を増加させ、速やかにInk4a/Arf欠損腫瘍細胞を死滅させることができることがわかりました。Ink4a及びArf遺伝子の欠損は一般的に予後不良性であるフィラデルフィア染色体陽性のB-ALLに非常多く、また再発したB-ALLにおいても同様に多数報告されています。本研究結果から、Nutlin-3のようなMdm2阻害剤が予後不良性のB-ALLに有望な薬剤となり得ることがわかりました。

本研究はテキサスMDアンダーソン癌センターのM. Andreeff教授及び小島研介先生との共同研究にて行われました。Andreeff教授はすでに急性骨髄性白血病を中心にMdm2阻害剤の臨床試験を精力的に進めており、今後私達の研究結果を基に予後不良性のB-ALLへの臨床試験を行っていきたいと考えています。

参考URL
http://www.mdanderson.org/newsroom/news-releases/2010/small-molecule-may-disarm-enemy-of-cancer-fighting-p53.html