トピックスレポート

CD44を介した糖代謝の制御は癌細胞における抗酸化状態と薬剤耐性に寄与する
玉田真由美

 Tamada M, Nagano O, Tateyama S, Ohmura M, Yae T, Ishimoto T, Sugihara E, Onishi N, Yamamoto T, Yanagawa H, Suematsu M and Saya H Modulation of glucose metabolism by CD44 contributes to antioxidant status and drug resistance in cancer cells. Cancer Research 72: 1438-1448, 2012
http://cancerres.aacrjournals.org/content/early/2012/03/06/0008-5472.CAN-11-3024.abstract

正常細胞はミトコンドリア呼吸(TCAサイクル)を主として、エネルギー産生を行い、低酸素の環境においてのみ解糖を利用したエネルギー産生を行います。一方、癌細胞は酸素の有無に関係なく解糖系の利用が亢進しています。この代謝は、ワールブルグ効果と呼ばれ、癌の重要な特徴として着目されています。
解糖系の亢進やその側副路であるペントースリン酸経路の活性化は、細胞内活性酸素産生の低下につながります。癌細胞における細胞内活性酸素の低下は、放射線や抗癌剤を使用した癌治療への抵抗性を引き起こします。

本研究において、私たちは、腫瘍増殖、癌浸潤・転移に関わるだけでなく、癌幹細胞のマーカーでもあるCD44が、近年、ワールブルグ効果の制御因子として注目されているpyruvate kinase M2 (PKM2)と結合・相互作用することによってその酵素活性を抑制し、癌細胞における解糖系亢進を維持していることを見出しました。さらに、CD44発現抑制によって起こる解糖系からミトコンドリア呼吸への代謝変調が、グルコース取り込みに必要なGlucose transporter1の発現抑制を誘導することでグルコース取り込みが抑制すること、その結果、解糖系の側副路であり、NADPH産生経路でもあるペントースリン酸経路への流量抑制が起き、還元型グルタチオン産生減少、細胞内活性酸素の上昇を引き起こすこと、それが抗癌剤感受性を増強につながることを報告しました。

以前報告した作用機序も合わせ、私たちは、CD44が還元型グルタチオン産生を制御し、細胞内ROSを低く保つ作用機序を2種提案しています。(図参照)

1.CD44 variant isoformがシスチントランスポーターと結合することにより、シスチンの取り込みを増強する結果、細胞内システイン量を維持すること( Ishimoto et al., Cancer Cell 2011)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S153561081100050X

2.CD44とPKM2の結合・相互作用がPKM2活性を抑制することにより、解糖系亢進、および、その側副路でNADPHの産生経路であるペントースリン酸経路への流量を維持すること( Tamada et al., Cancer Research 2012)

今後、研究結果を基にCD44が制御する癌糖代謝が新たな治療標的となる可能性を更に追及していきたいと考えています。

Tamada M et al., Cancer Res 72: 1438-1448, 2012, Supplementary Figure S7より転載