トピックスレポート

Alternative splicing of CD44 mRNA by ESRP1 enhances lung colonization of metastatic cancer cell.
八戸 敏史

Nat Commun. 2012 Jun 6;3:883. doi: 10.1038/ncomms1892.
Yae T, Tsuchihashi K, Ishimoto T, Motohara T, Yoshikawa M, Yoshida GJ, Wada T, Masuko T, Mogushi K, Tanaka H, Osawa T, Kanki Y, Minami T, Aburatani H, Ohmura M, Kubo A, Suematsu M, Takahashi K, Saya H, Nagano O.

1.要旨

癌幹細胞は腫瘍組織構築の大本になる細胞であり、治療に対する抵抗性が高いことから、癌の再発、転移などの起源になると考えられています。乳癌、大腸癌などの固形癌においては、CD44陽性の癌細胞は癌幹細胞様の性質を持ち、さらにCD44のバリアントアイソフォーム(CD44v)の発現は、遠隔転移と相関していることが知られています。
今回、我々は癌幹細胞の主要な表面マーカーの一つであるCD44を介した酸化ストレス回避機構が、乳癌の肺への転移を促進することを明らかにしました。これらの知見はCD44を高発現する転移性乳癌細胞を標的にした治療法の確立に繋がる大きな可能性を秘めていると考えられます。

2.主な研究成果

高転移性のマウス乳癌細胞株4T1細胞をCD44v陽性と陰性の細胞画分に分離し、それらの肺転移能について検討したところ、CD44v陰性細胞に比べて明らかにCD44v陽性細胞で高いことが分かりました。また、質量分析イメージングを用いて、CD44vを高発現する肺転移巣には抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)が高く含まれていることを見出しました。そこで我々は、CD44vの発現によるシスチントランスポーター(xCT)の安定化が、癌細胞内のGSH生成を促進することで、転移の過程で受ける酸化ストレスからの回避機構として働くのではないかと考えました。
その分子メカニズムの主役はCD44 mRNA の選択的スプライシングの制御因子であるESRP1タンパク質でした。ESRP1の発現を抑制すると、xCTの発現および癌細胞内GSH含有量は著明に低下し、CD44v陽性細胞の肺転移を著明に抑制できました。また、CD44v陽性細胞と陰性細胞のESRP1の発現にはESRP1遺伝子座のヒストン修飾の変化が関連していることが分かり、エピジェネティックな発現制御機構が重要であると考えられました。

3.本研究の意義

これらの結果から、CD44を介した酸化ストレス抑制機構は、腫瘍の増大や治療に対する抵抗性のみならず、癌の転移にも寄与していることが分かりました。つまりCD44vの発現が高い癌においてはCD44vやxCTを標的とした治療を行うことで、癌幹細胞および転移性癌細胞を標的とした治療法を開発できる可能性を示しています。また、ESRP1のエピジェネティック制御という新たなCD44v発現制御機構の解明は、転移性癌細胞に対する治療の新規標的分子の発見に繋がることが予想され、がん転移治療薬開発において大変重要な意義を持つと考えられます。

図 CD44v陽性乳癌細胞の肺転移メカニズム
ESRP1の発現によってCD44vが陽性となった癌細胞は酸化ストレスを抑制する能力が高く、治療に対して抵抗性を示す細胞である。これらの細胞は転移の際に生じる酸化ストレスに対し ても抵抗性を発揮し、転移巣の成立と拡大に関与する。