トピックスレポート

IGF1 receptor signaling regulates adaptive radioprotection in glioma stem cells.
大須賀 覚

IGF1 Receptor Signaling Regulates Adaptive Radioprotection in Glioma Stem Cells.
Osuka S, Sampetrean O, Shimizu T, Saga I, Onishi N, Sugihara E, Okubo J, Fujita S, Takano S, Matsumura A, Saya H.
Stem Cells. 2012 Apr;31(4):627-40. doi: 10.1002/stem.1328.

1.要旨

癌幹細胞は治療抵抗性を示していることから、癌の再発などの起源になることが知られています。この抵抗性の原因としては、元来備わっている幹細胞特性 (増殖遅延、酸化ストレス回避能など)が関与することも報告されています。しかし、慢性的な治療刺激により、癌幹細胞が更なる抵抗性を獲得するのかは不明でした。我々は遺伝子改変によって誘導した同系マウスグリオーマ幹細胞を用いて、反復放射線照射中に起こる変化を前方視的に観察することで、細胞特性変化とその分子メカニズムを解析しました。この結果、グリオーマ幹細胞は反復放射線照射を受けていくと、Insulin-like growth factor-1 (IGF-1)- Forkhead box O3a(FoxO3a)の経路を利用して、幹細胞特性(増殖遅延・自己複製能など)と放射線抵抗性を増加させていることを明らかにしました。また、この経路を抑えることにより、放射線抵抗性獲得を防げることも証明しました。

2.主な研究成果

H-Rasを過剰発現したInk4a/Arf-/-神経幹細胞を同系マウス脳に移植することにより神経膠芽腫様腫瘍を発生させ、その腫瘍内からスフェア形成能が高く多分化能を持つ腫瘍幹細胞集団(TS)を取得しました。このTSにX線照射を合計60Gy(5Gy×12)行い、残存する細胞集団(TS-RR)を獲得しました。この二つの細胞群の特徴を比較検討したところ、TS-RRはTSに比べて、強い放射線抵抗性を示し、さらに幹細胞特性(増殖遅延・自己複製能)を高めていました。シグナル分子解析により、TSは放射線照射を繰り返されるにつれて、徐々にIGF1分泌とIGF1R発現の増加をきたしていくことが分かり、TS-RRにおいては慢性的なIGF1シグナル活性化によると思われるAkt不活性化とFoxO3a核内貯留が起こっておりました。その結果として、TS-RRにおいては定常状態ではFoxO3aを介した幹細胞特性増加が起こっておりました。また興味深いことに、TS-RRは放射線照射後急性期には定常状態とは大きく変わり、急激なIGF1分泌に伴うAkt活性化をひき起こすようになり、これによるアポトーシス回避を起こしていました。この機序を抑制するために、放射線照射時にIGF1R阻害剤を加えると、TS-RRの放射線抵抗性が有意に抑制できることをマウスモデルにて確認しました。
反復放射線照射を受けたグリオーマ幹細胞は、照射後にはIGF1分泌による生存シグナル活性化と、その後の慢性期にはFoxO3aを介した幹細胞特性増加によって次の照射の影響を回避するという、IGF1を巧妙に利用した二段階の防御機構で抵抗性を発揮することが判明しました。

3.本研究の意義

今回示した結果より、グリオーマ幹細胞においてIGF1刺激は古典的なAkt活性化などによる生存シグナル増強のみでなく、慢性的刺激による活性化ループ下ではFoxO3a活性化による幹細胞特性増加にも関わることが判明しました。この巧妙な機序の理解は、癌幹細胞が長期的な治療刺激下では、ダイナミックな形質転換を起こしていくことを示しており、今後の癌幹細胞に対する治療戦略を考える上でも重要な成果と考えております。

図 反復放射線照射によって起こる脳腫瘍幹細胞の形質変化