トピックスレポート

Up-Regulation of Imp3 Confers In Vivo Tumorigenicity on Murine Osteosarcoma Cells.
植木 有紗

Up-regulation of imp3 confers in vivo tumorigenicity on murine osteosarcoma cells.
Ueki A, Shimizu T, Masuda K, Yamaguchi SI, Ishikawa T, Sugihara E, Onishi N, Kuninaka S, Miyoshi K, Muto A, Toyama Y, Banno K, Aoki D, Saya H.
PLoS One. 2012;7(11):e50621. doi: 10.1371/journal.pone.0050621. Epub 2012 Nov 30.

本研究の先行研究において、Ink4a/ Arf ノックアウトマウスの骨髄間葉系細胞にc-MYCを過剰発現することにより、骨肉腫細胞(AX細胞)を樹立したことを報告しました(Shimizu et. al., 2010, Oncogene)。そしてAX細胞をマウスに移植することによって、形成された骨肉腫から採取した細胞(AXT細胞)をマウスに二次移植すると、生存期間が著明に短縮していることがわかりました。このことより腫瘍細胞が悪性度を上昇させる機序に着目し、AX細胞とAXT細胞の遺伝子発現プロファイルの比較からInsulin- like growth factor-Ⅱ mRNA- binding protein 3 (Imp3)がAXT細胞において著明に発現亢進していることを見出しました。Imp3は胎生期の諸臓器および癌で発現しているoncofetal proteinです。様々な癌腫においてImp3の高発現と癌の悪性度や予後との相関が報告されていますが、悪性腫瘍においてその機能を説明できる機序は解明されていません。そこでImp3の悪性腫瘍進展に果たす役割の解明を目的として解析を行いました。

その結果Imp3の発現は、腫瘍形成能を有意に高め、細胞増殖能に関しては接着培養では差がないものの、非接着条件では有意に細胞増殖が上回り、足場非依存性の増殖が亢進していることが明らかになりました。さらに、ヒト骨肉腫においてもIMP3の発現は上昇していることを確認しました。次に限界希釈することでImp3発現の著明に低下している細胞(クローン)を採取しマウスに移植すると、腫瘍が形成された場合にのみImp3の発現上昇がみられました。すなわち腫瘍形成の過程においてImp3発現の高いクローンが選択されるのではなく、クローンレベルで発現が上昇することが導かれました。腫瘍形成の過程においてImp3が発現誘導され、腫瘍原性に寄与するこの結果は、癌幹細胞研究においても興味深い結果であると考えられます。
また、Imp3を過剰発現させた細胞においてもImp3は非接着条件、つまり足場が存在しない環境下での細胞増殖に寄与し、生体における腫瘍原性にも関与すると考えられました。そしてImp3を発現抑制させた際には、非接着条件での細胞増殖の抑制、接触阻止の誘導、足場のない状態での細胞死(anoikis)の誘導、生体での腫瘍形成能の低下を引き起こすことが明らかとなりました。
ポリソーム解析によりImp3は翻訳が行われるとされるモノソーム、ポリソーム分画に存在することが明らかとなり、骨肉腫細胞においてもRNAの翻訳調節に関わる可能性が示唆されました。Imp3の作用機序としてIgf2 mRNAと結合することが細胞増殖や腫瘍原性に関わることが報告されており、骨肉腫細胞においてImp3の発現がもたらす効果についてIgf2との関連を検討しました。しかしながらImp3の機能についてIgf2の発現調節だけでは説明することができず、また、Igf2の発現を抑制し腫瘍形成能を比較したところ、Imp3はIgf2非依存的に腫瘍原性を制御することが推定されました。

以上より、Imp3の異常発現は、マウス骨肉腫細胞における生体での腫瘍原性の制御に密に関わることが解明されました。Imp3は多くの癌腫で予後との相関が報告されている注目の分子です。我々の研究結果は新たな治療標的としてImp3が有望であることを示唆しています。今後、Imp3発現を制御するメカニズムの解明を進め、治療への応用を模索していきたいと考えております。

図 マウス骨肉腫モデルにおけるImp3の機能
Imp3はリボゾームおよびポリソームに局在し、転写翻訳の制御に関わります。そしてImp3が引き起こす、足場非依存性増殖能の亢進、接触増殖阻止能の喪失、anoikisの回避、腫瘍形成能の亢進といったoncogenicな細胞形質変化については、Igf2単独による制御では説明できないことがわかりました。