トピックスレポート

ROCK inhibition induces terminal adipocyte differentiation and suppresses tumorigenesis in chemoresistant osteosarcoma cells

Takahashi N, Nobusue H, Shimizu T, Sugihara E, Yamaguchi-Iwai S, Onishi N, Kunitomi H, Kuroda T and Saya H
Cancer Res 2019; 79(12): 3088-3099

腫瘍組織は、がん幹細胞や前駆細胞、そして分化細胞といった不均一な細胞集団により構成されています。腫瘍に対して抗がん剤が効かない、あるいは効かなくなる現象を化学療法抵抗性といいますが、その特性はがん幹細胞に特有であると考えられており、がん再発の大きな原因の一つとなっています。しかしながら、これら化学療法抵抗性を有するがん幹細胞を標的とした新規治療法の開発は限られているのが現状です。私達はこれまでに、マウス骨髄間質細胞に癌遺伝子c-MYCの過剰発現および癌抑制遺伝子Ink4a/Arfを欠損することによって、致死性の悪性腫瘍を形成する骨肉腫起源細胞(OSi)を樹立したことを報告しました(Shimizu et al., 2010, Oncogene)。また、これらOSi細胞は、骨・軟骨前駆細胞の特徴を有するAX細胞と間葉系幹細胞の特徴を有するAO細胞の2つのサブクローンから構成されることを見出しました。今回、私達はOSi細胞において化学療法抵抗性を有するサブクローンを同定するとともに、これらの細胞に対する新規治療法の開発を試みました。

AO細胞はAX細胞と異なり、骨肉腫の化学療法に用いられる抗がん剤(ドキソルビシンあるいはシスプラチン)に対して高い抵抗性を示すことを発見しました。また、ヒト骨肉腫組織を用いた解析において、悪性度の低い骨肉腫ではAO様細胞はほとんど認められませんでしたが、化学療法後に再発した骨肉腫ではAO様細胞が多数存在することを見出しました。このことから、マウスのみならずヒト骨肉腫においても、AO細胞が化学療法抵抗性に関与することが示唆されました。

次いで、これら化学療法抵抗性を有するAO細胞に対して、アクチン細胞骨格の動態を制御するRhoキナーゼ(ROCK)を阻害すると、アクチンと直接結合する転写調節因子のMKL1の核内移行および転写を抑制し、それによって脂肪細胞への終末分化が誘導されることを明らかにしました。特に、くも膜下出血術後の脳血管攣縮の治療薬として臨床応用されているROCK阻害薬ファスジルは、AO細胞およびヒト骨肉腫細胞株において脂肪細胞分化を誘導するとともに、増殖を抑制することが分かりました。さらに、AO細胞を皮下移植したマウスにファスジルを投与すると、骨肉腫内にて脂肪細胞分化が誘導され、腫瘍形成が抑制されました。最終的に、私達は親株である不均一なOSi細胞をマウスに皮下移植し、ドキソルビシンとファスジルの併用投与を行いました。その結果、それぞれ単剤投与した骨肉腫と比較して、併用投与した骨肉腫では、終末分化した脂肪細胞が多数観察され、腫瘍体積が劇的に減少することを見出しました。

本研究の結果から、化学療法抵抗性の骨肉腫細胞において、アクチン細胞骨格の動態を変化させることで、脂肪細胞への終末分化を誘導し、腫瘍抑制するという新たな治療法(分化転換治療法)を開発できる可能性が示されました。今後、私達は、本研究にて見出したROCK阻害剤ファスジル、さらにはドキソルビシンとの併用が、ヒト骨肉腫において脂肪細胞への分化転換を誘導し腫瘍抑制できるか検討し、臨床試験を行なっていきたいと考えています。

図 不均一な骨肉腫細胞を標的とした新規治療法
骨肉腫起源(OSi)細胞はAO細胞とAX細胞の2つのサブクローンから構成される。AX細胞は抗がん剤ドキソルビシンの処理によって、完全に駆逐される。一方、化学療法に抵抗性を示すAO細胞はROCK阻害剤ファスジルの処理によって、脂肪細胞へと終末分化が誘導され、腫瘍形成性を消失する。すなわち、ドキソルビシンとファスジルの併用投与は、不均一な骨肉腫を標的とした新規治療戦略になると考えられる。