トピックスレポート

The insulin-PI3K-Rac1 axis contributes to terminal adipocyte differentiation through regulation of actin cytoskeleton dynamics

Kunitomi H, Oki Y, Onishi N, Kano K, Banno K, Aoki D, Saya H and Nobusue H
Genes Cells 2020; 25(3): 165-174

細胞は分化に伴って、細胞の形を決定するアクチン細胞骨格を再構成し、分化細胞それぞれの機能に特徴的な形態へと変化することが知られている。前駆脂肪細胞は、線維芽様の形態を示し、細胞全体に発達したアクチンストレスファイバーを有するが、脂肪細胞への分化に伴ってこれらはバラバラになり(脱重合アクチン)、細胞表層に脂肪細胞特有のアクチン構造(表層アクチン)を再構築することが分かっています。私達はこれまでに、アクチン細胞骨格の動態を制御するRhoA-ROCKシグナルが不活性化し、アクチンストレスファイバーが脱重合することで前駆脂肪細胞の分化が開始されることを見出し、報告しました(Nobusue et al., 2014, Nat Commun)。今回、私達は表層アクチン構造への再構築が脂肪細胞分化に必要であるか明らかにするとともに、脱重合したアクチンがどのようなメカニズムで表層アクチン構造へと再構築されるか検討を行いました。

脱分化脂肪細胞DFAT(Nobusue et al., 2008, Cell Tissue Res)にアクチン重合阻害剤であるLatrunculin A(Lat A)を短期間処理したのち、インスリンを添加した培地で培養すると、表層アクチン構造の形成が促され、脂肪細胞へと完全に分化(終末分化)することを見出しました。一方、Lat Aを長期間処理すると、脂肪細胞分化は開始されるものの、表層アクチン構造への再構築および終末分化は抑制されました。また我々は、インスリンの下流で働くPI3キナーゼ、アクチン細胞骨格の制御因子であるRac1、さらには表層アクチンの重要な構成要素であるArp2/3を阻害することで、インスリン刺激による表層アクチン構造の形成が減弱し、脂肪終末分化が抑制されることを明らかにしました。

本研究の結果から、インスリン-PI3キナーゼ-Rac1のシグナル経路が表層アクチン構造の形成を促し、脂肪細胞への終末分化に貢献することが解明されました。今後、私達の見出したシグナル経路あるいはアクチン細胞骨格の動態を薬剤制御することで、生体内の脂肪細胞分化を調節できないか明らかにし、臨床応用への可能性を追求していきたいと考えています。

図 アクチン細胞骨格の動態による脂肪細胞分化の制御機構
前駆脂肪細胞はRhoA-ROCKシグナルの不活性化によってアクチンストレスファイバーの脱重合が引き起こされ、それによって脂肪分化のマスター転写因子であるPPARγの発現が誘導され、脂肪分化が開始されます。次いで、インスリン刺激によってPI3キナーゼおよびRac1シグナルが活性化され、脱重合したアクチンは脂肪細胞特有の表層アクチン構造へと再構築が促され、脂肪分化が完結します。