トピックスレポート

2-Nitroimidazoles induce mitochondrial stress and ferroptosis in glioma stem cells residing in a hypoxic niche

Naoyoshi Koike, Ryuichi Kota, Yoshiko Naito, Noriyo Hayakawa, Tomomi Matsuura, Takako Hishiki, Nobuyuki Onishi, Junichi Fukada, Makoto Suematsu, Naoyuki Shigematsu, Hideyuki Saya, Oltea Sampetrean
Commun Biol 3, 450 (2020)

腫瘍内の低酸素領域は放射線抵抗性の原因であり、そのために治療標的として考えられています。ニトロイミダゾール化合物は低酸素環境下では酸素に代わって電子受容体として機能し、低酸素環境下にあるがん細胞の放射線によるDNA損傷を固定する放射線増感剤として使用されています。また、ニトロイミダゾール化合物は低酸素細胞に集積することから、低酸素マーカーとしても臨床使用されています。本研究で、私たちグループは2-ニトロイミダゾール化合物がグリオーマ幹細胞に対して放射線増感効果を有することを明らかにしたとともに、低酸素ニッチ内のグリオーマ幹細胞に単剤としてフェロトーシスを誘導することを見出しました。

誘導型グリオーマ幹細胞モデルを用いた検証から、2-ニトロイミダゾール化合物であるドラニダゾールが低酸素環境下にあるグリオーマ幹細胞の放射線損傷を増強すること、グリオーマ幹細胞を移植したマウスの生存を放射線照射併用時に延長することがわかり、ドラニダゾールがグリオーマ幹細胞に対しても放射線増感効果を有することがわかりました。

更に、2-ニトロイミダゾール化合物であるドラニダゾールとミソニダゾールは5-ニトロイミダゾール化合物であるメトロニダゾールと異なり低酸素環境下にあるグリオーマ幹細胞の細胞死を単剤で誘導すること、その細胞死の形態がフェロトーシスであることを見出しました。その機序として、2-ニトロイミダゾール化合物がミトコンドリアの電子伝達系を阻害し、引き続いてミトコンドリア由来の活性酸素種を誘導しフェロトーシスを引き起こすことを示しました。また、ドラニダゾールは単剤でグリオーマ幹細胞由来のマウス皮下腫瘍及び培養脳切片内腫瘍の増大を抑制することがわかりました。

本研究により2-ニトロイミダゾール化合物は低酸素下での放射線増感剤であるとともに、腫瘍内の低酸素の検出と低酸素ニッチに存在するグリオーマ幹細胞のフェロトーシス誘導薬として診断と治療が融合した薬剤である可能性が示されました。

図 放射線治療と2-ニトロイミダゾールの併用による殺癌細胞効果         
  照射単独では低酸素領域のがん細胞を死滅させることが出来ずに腫瘍が再発してしまう。2-ニトロイミダゾール化合物は低酸素領域のがん細胞のフェロトーシスによる細胞死を誘導するが、低酸素領域以外のがん細胞では蓄積の問題もあり効果が乏しい。放射線と2-ニトロイミダゾールを併用することで、低酸素領域のがん細胞のフェロトーシス誘導とDNA損傷を効率的に与え低酸素領域に対する効果が最大化されるとともに低酸素環境下以外では放射線の効果が期待できがん細胞の根絶が期待される。