トピックスレポート

悪性リンパ腫がFas誘導アポトーシスによるがん免疫を回避するメカニズムの解明

Sugihara E, Hashimoto N, Osuka S, Shimizu T, Ueno S, Okazaki S, Yaguchi T, Kawakami Y, Kosaki K, Sato TA, Okamoto S, Saya H
The inhibitor of apoptosis protein Livin confers resistance to Fas-mediated immune cytotoxity in refractory lymphoma. Cancer Research, 2020, in press. DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-19-3993

近年、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法に抵抗性を持つがん細胞が存在することが報告されています。免疫細胞ががん細胞を攻撃する主な仕組みはT細胞によるFasリガンドを介したFas誘導アポトーシスです。しかしこれまでFasを発現したがん細胞がいかに抵抗性を獲得するのか、詳細な機序はほとんど不明でした。本研究ではB細胞リンパ腫モデルの構築し、免疫抵抗性が生じる機序の解明を目的として研究を実施しました。

まずマウス脾臓B細胞を培養し、がん遺伝子MYCを遺伝子導入後、マウスの腹腔内への移植を行いました。その結果、がん抑制遺伝子であるCdkn2aが欠損したB細胞から約60%の割合でリンパ腫を形成することが分かり、新たなリンパ腫モデルを樹立しました。細胞表面分子を解析したところ、移植前のB細胞で高発現していたFasがリンパ腫では発現していないことを見出しました。移植前細胞のFas発現抑制実験及びリンパ腫細胞へのFas遺伝子導入実験の結果からFasの発現低下はリンパ腫発症と維持に重要な分子であることが示されました。さらに、CD40シグナルを活性化するとFas発現が回復することが分かりました。ヒトリンパ腫の細胞株においてもマウスと同様に多くの細胞株でFasが低発現である一方、CD40シグナルを活性化させても半数の細胞株ではFas発現回復が見られるもののFas誘導アポトーシスに抵抗性を示すことが分かりました。

そこでアポトーシス抵抗分子群を調べた結果、IAPファミリーの一つであるLivin分子(別名:ML-IAP, BIRC7)が抵抗性株で高発現していることを見出しました。実際Livin高発現はリンパ腫患者において予後不良と相関し、Livin高発現とFas低発現のリンパ腫患者は最も生存期間が短いことが分かりました。次にLivin分子の発現を調節する上流分子を調べたところ、BETファミリータンパク質(BRD4とBRD2)が関与することを見出しました。これらの分子はゲノム上の遺伝子発現調節領域のアセチル化ヒストンと結合し、Livinの発現を活性化することから、リンパ腫が悪性化の過程でエピジェネティクスの変化によりLivin高発現を獲得したことが示唆されました。さらにLivinの阻害剤またはBETファミリータンパク質の阻害剤を投与するとFas誘導アポトーシスに抵抗性を示していたリンパ腫細胞株において有意に細胞死が引き起こされることを明らかにしました。

以上により、本研究では悪性リンパ腫においてがん免疫に対する新たな抵抗性獲得のメカニズムが明らかになりました。Fas誘導アポトーシスはがん免疫の主要な攻撃手段のであるため、免疫チェックポイント阻害剤への抵抗性をもつ他臓器のがんにおいても重要な知見となる可能性があります。Livinの阻害剤やBETファミリータンパク質の阻害剤は現在臨床試験が行われており、本研究の結果を踏まえ、悪性リンパ腫の免疫抵抗性への新たな治療手段としての応用・展開が大いに期待されます。

図 リンパ腫発症・悪性化に伴うがん免疫抵抗性獲得のメカニズム         
  正常B細胞はMYCの過剰発現などの発がんイベントに加え、Fasの発現が低下した細胞がCD8陽性T細胞など細胞障害性細胞によるFas誘導アポトーシスから逃れることでリンパ腫が発症する。また、エピジェネティクスの変化によりBRD4及びBRD2がLivin発現を増加させることでリンパ腫細胞はさらにFas誘導アポトーシスの抵抗性を獲得し、悪性リンパ腫の難治性を高めている。